人生の三分の一近くを過ごした学生街には、思い入れ深いお店が数多くあります。
中でもよく行くのが、『ラジュ』というインドカレー屋さん。こちらの「アンコナン」がなかなか面白い一品でしたので、ご紹介させていただきます。
インド料理RAJU 百万遍店
この二軒をどちらも「ラジュ」と呼んでおり、全く区別していません。
店舗によるお味の違いよりも、同一店舗でのブレの方が大きいように思います。塩気や辛さ、ナンの焼き加減など、日によってまあまあ異なりますが、いつでもちゃんと美味しいので問題ありません。ときどき、感動するくらい美味しいことがある、というだけです。
私のお気に入りは「ラムチョップマサラ」。
トマトがバチバチに効いたカレーに、骨付きの柔らかなラム肉が入っており、大学近辺で食べられる羊肉料理の中では一番好きです。中央のバターの沼にナンを浸せば、バター教に入信したくなるような幸福感を味わえます。
普段はプレーンのナンをいただいておりますが、こちらには、和菓子好きとして見逃せないメニューがありました。
アンコナン(ANNKO NAN)
アンコって、あの、甘いあんこのことかしら? デザート?それともカレーといただくもの?
気になったものの、誰かと一緒のときに攻めたメニューは頼みづらく、ずっと機会を伺っておりました。
そして先日、昼食をサクッと買ってくる必要が生じたときに、脳裏に浮かんだのが「アンコナン」でした。
デザートかカレーのお供か不明のため、まずは単品で頼んでみることに。
お会計が380円だったため、「あれ、480円では?」と思いましたが、そのままお支払いしました。
今確認すると、やはり480円。間違えた彼が叱られていませんように。
ラボに戻り、「アンコナン」とご対面です。
プレーン同様しずく型のナンにうっすらと透ける、馴染み深い小豆色。
断面を見るに、一般的な和菓子やあんぱんに比べ、控えめなあんこの量に思えます。
いただいてみると、ナンが薄いからでしょう、驚くほどしっかりと、あんこの甘さが感じられました。
純和風のこし餡は、甘すぎず、きちんと小豆のお味と香りがあります。一体どういうルートで仕入れておられるのかしら。
表面に塗られたバターがしっかりと香りますが、あんバターの商品にありがちな油っこさはなく、素朴で癖になる味わい。
ホカホカの生地は意外にしっとりしていて、ほとんど水分を摂らずに食べ進めることができます。「もちもち釜焼きあんぱん」という表現がぴったり。中心部の薄くパリパリに焼かれた部分は、完全に「あんデニッシュ」で、とっても美味しいです。
ナンのもちもち食感 × バターの仄かな塩気 × 甘いあんこ。焼きたてという最強のカードも加わり、これを創り出してくださった方への感謝の念が自然と湧き上がります。
もぐもぐと食べ進めて、甘さと単調さに少々疲れてきた頃、ちょうど食べ終えました。おはぎ3つをいっぺんに食べたかのような満足感です。
と思った次の瞬間。急にお腹が膨れる感覚に襲われました。そういえば粉物は遅れてくるのでした!
単品にしておいて正解だったと思いつつ、カレーとの相性も気になってきました。あんこの量が適度なので、甘じょっぱくて美味しいような予感がするのです。
これはまた、テイクアウトしてくるしかありません。
アンコナン× キーマカレー
再び「ラジュ」へ。
半分は残しておくつもりで、冷凍しやすい「キーマカレー 900円」をチョイスしました。「アンコナン」への変更料金は+200円のようです。
しずく型か丸型かは、作り手さんによって異なるのかもしれません。お味は前回同様、お菓子のような甘さともちもち食感が楽しめます。
いざ、キーマカレーをディップしていただいてみると。
甘さが消え去りました。びっくり。
「アンコナン」の甘みは、「カレーにお砂糖を少々加えた」変化として脳内処理されるようです。ややカレーの辛さが和らぎ、まろやかさが増したように感じられますが、期待した「甘じょっぱい味わい」にはなりませんでした。
さらに、カレー単体からは決して感じない独特の風味、強いて表現するなら「酸味」を感じます。
改めて「アンコナン」だけでいただいてみると、確かに酸味があるようです。とはいえ、あんこが酸っぱいわけではなさそう。
普通のナンにもこんな酸味あったかしら...?
プレーンナン× キーマカレー
気になったら確かめずにはいられない性分です。
三たび「ラジュ」を訪れ、「ナンひとつ、テイクアウトでお願いします!」と告げたところ、「ナンだけ〜?」と訊かれてしまいました。
ごめんなさい、次回来た時にはしっかり注文しますから!
これは...!店内でいただくとき、いつも出してくださるスープ!
舌で潰せるほど柔らかく煮込まれたキャベツとたっぷりのニンニク、ふわふわの卵白の入った、滋味深いスープです。ベースはチキンエキスではないかしら。
テイクアウトのときに出てきたのは初めてです。「カレーを頼む余裕がないのかしら」と、気の毒に思ってくださったのかもしれません。なんだか申し訳ないけれど、お気持ちがとっても嬉しいです。
改めてプレーンナンをいただいてみると、サワードウに通じるような、ただそれよりはかなり控えめな、発酵由来の酸味があるようです。こちらのナンはほとんど甘さがないため、甘みよりはやや酸味の方が目立つかしら、というくらい。一般的なパンと比べても、特にクセのない生地です。
カレーと合わせると、むしろ酸味は気にならなくなり、小麦の甘みが際立ちました。「そうそう、これこれ!」という美味しさです。
どうやら、あんことカレーが合わさると、ナンの発酵による酸味が強調されるようです。
不思議ではありますが、間違いなく言えることは「アンコナンはカレーには合わない」ということでした。「アンコナン」は「チョコレートナン」などと同じく、デザートナンの括りだったみたい。改めて書くと当たり前すぎて、お恥ずかしいです。
半分残しておいた分は、ホットミルクに浸しつついただきました。とってもよく合いました!
移り変わりの激しい百万遍の飲食店街において、長く愛されているインドカレー屋さん『ラジュ』。
サークルの先輩方に連れられ、初めて訪れた日。ラムカレーにハマって通い詰めた時期。一人でテイクアウトを繰り返したコロナ禍。インドカレー好きの同期と親しくなり、一緒に通うようになった現在。
私の学生生活には常に、『ラジュ』の大きなナンとカレーがありました。
いつか大学を離れても、帰ってこれる場所であり続けてくれたら、これほど嬉しいことはありません。